
「築地へ行きたい」と考えたとき、多くの方が思い浮かべるのは、早朝のまぐろのせりや、活気ある卸売市場の風景かもしれません。ただ、そのイメージのいくつかは、いまの築地には当てはまりません。卸売市場としての築地市場(いわゆる「場内」)は2018年に豊洲へ移転しており、現在の築地で歩けるのは「築地場外市場」です。この前提を知らないまま訪れて戸惑う方は少なくありません。ここでは違いを整理したうえで、朝の場外市場を無理なく回るための手順をまとめます。
かつての築地には、性格の異なる二つの区域が隣り合っていました。ひとつは東京都が開設する中央卸売市場、つまり「場内」。もうひとつが、その周囲に広がる商店街としての「場外市場」です。
このうち場内は、築地場外市場公式サイトの年表にもあるとおり、2018年(平成30年)に豊洲へ移転しました。東京都公式観光サイトも、場内市場は豊洲へ移った一方で、場外市場は以前と変わらぬ活気に満ちていると記しています。いま築地を訪ねても、せりなどの卸売の現場を見ることはできません。
反対に、鮮魚店や乾物店、飲食店が軒を連ねる街並みは築地に残りました。区域内には生鮮市場「築地魚河岸」もあり、小田原橋棟と海幸橋棟の二棟で営業しています。訪問の目的地は、この「場外市場」だと考えてください。
築地という地名は、海を埋め立てて築かれた土地であることに由来します。公式サイトの年表によれば、1657年(明暦三年)の大火後の復興計画でこの一帯が開発され、1664年(寛文四年)には日本橋魚河岸の魚問屋たちが願い出て南小田原町が開かれました。魚を扱う商いとの縁は、この頃までさかのぼります。
転機となったのが1923年(大正12年)の関東大震災です。焼失した日本橋魚河岸がこの地へ移り、1935年(昭和10年)に東京都中央卸売市場築地本場が正式に開業しました。場外市場はその周囲で、仕入れに来るプロを相手にする商店街として育っていきます。公式サイトが「開場から80年以上、食のプロと共に築いてきた」と記すのは、この歩みのことです。
現在の規模について、東京都公式観光サイトは、魚介類からプロ向けの調理器具まで扱う店が何百軒も並ぶと説明しています。公式の店舗検索も、まぐろ、鮮魚貝類、青果、乾物、鰹節、漬物、玉子焼、おでん・練製品、寿司、海鮮丼、さらには刃物や食器、包装用品まで細かく分かれています。食材だけでなく、食にまつわる道具までそろう街です。
場外市場を朝に勧める理由は、単に「空いているから」ではありません。公式サイトの営業カレンダーは、一日を三つの時間帯に分けて説明しています。6時から9時が業務用の仕入れがメインとなる時間帯、9時から14時が通常の販売時間、14時以降が自由営業時間です。
つまり、一般の買い物客や観光で訪れる方にとって本領といえるのは、9時から昼過ぎまでということになります。中央区観光協会に掲載された振興組合の情報でも、営業時間は9時から15時(店舗により異なる)とされ、一般の来訪は9時以降が案内されています。築地魚河岸も5時から15時の営業ながら、一般の方や観光客は午前9時以降に来てほしいと明記しています。
一方で、午後になると閉め始める店が出てきます。昼過ぎに着くと目当ての店がすでに終わっていた、ということも起こり得ます。朝食を済ませてから向かうのではなく、朝食を場外市場で取るくらいの時間配分が、結果的にいちばん無理がありません。
場外市場で目に入りやすいのが、店先で焼かれる玉子焼です。公式の店舗検索で玉子焼のカテゴリーに掲載されているのは、つきぢ松露、丸武、築地 山長、玉八商店の各店です。串に刺して売る店もあり、朝の一品目に選ばれることの多いジャンルです。
寿司と海鮮丼は、それぞれ独立したカテゴリーが設けられているほど店数があります。待ち時間が生じることもあるため、開店直後を狙うのが現実的です。築地魚河岸の小田原橋棟三階には「魚河岸食堂」も設けられています。
まぐろは店舗検索でも独立したカテゴリーになっており、鮮魚貝類、塩干魚・魚類加工品と並ぶ看板ジャンルです。
練り物も場外市場らしい一角です。公式の店舗検索でおでん・練製品として掲載されているのは、味の浜藤築地本店、築地紀文店、花岡商店、丸玉水産の各店です。温かいものは、寒い時期の朝には特にありがたい存在です。
持ち帰りを考えるなら、鰹節をはじめとする乾物が向いています。鰹節のカテゴリーには、秋山商店、味のよねくら、尾林商店、川邊商店、伏高、松村、和田久の七軒が掲載されています。
場外市場を訪ねるうえで、時間帯以上に見落としやすいのが休みの日です。公式サイトは、東京都中央卸売市場の休市日には場外市場も休む店が多いと明記しています。休市日は日曜と祝日に加え、水曜にも設定される週があり、月ごとに異なります。築地魚河岸も、日曜・祝日と指定の水曜を休みとしています。
ただし、これはあくまで傾向です。公式サイト自身が「場外市場でも閉まっている店があります。各店の営業日については直接店舗にご確認下さい」と案内しているとおり、営業日は店ごとに異なります。訪問日を決めたら、公式サイトの営業カレンダーで休市日かどうかを確認しておくのが確実です。
場外市場は観光施設ではなく、いまも仕入れが行われている商いの場です。公式サイトは「働く人・買出し人・観光のお客様・地域の方、誰にとっても気持ちの良いまちづくり」を掲げ、八つのマナーを示しています。
とりわけ「食べ歩き」という言葉は、そのまま歩きながら食べてよいという意味ではない点に注意してください。公式が求めているのは、買ったものを店先のイートインスペースや指定の場所で食べることです。通路の幅は限られています。立ち止まる場所を選ぶだけで、周囲との摩擦はかなり減ります。
買い物や食事のあとに足を延ばしやすいのが築地本願寺です。東京都公式観光サイトは、1934年に再建された本堂が古代インドの仏教建築を模した外観を持ち、堂内にシャンデリアとドイツ製のパイプオルガンを備えると紹介しています。中央区観光協会も、本堂を古代インド様式の石造建造物と説明しています。公式サイトによれば、本堂の参拝時間は6時から16時までです。早い時間にも門が開いている点は、朝型の行程と相性がよいところです。
もう一か所、波除神社(波除稲荷神社)も立ち寄りやすい場所です。公式サイトによれば、埋め立て工事の際に海から御神体が見つかり、社殿が建てられたのが1659年(万治2年)とされています。所在地は中央区築地六丁目で、都営大江戸線築地市場駅から徒歩5分です。
豊洲市場との使い分けも整理しておきましょう。豊洲市場は東京都が開設する中央卸売市場で、卸売の取引が行われる場です。一方の築地場外市場は、一般の買い物客も歩ける商店街です。取引の現場に関心があるなら豊洲へ、街歩きと食べ比べを楽しみたいなら築地へ、という選び方が素直です。豊洲市場の見学方法や一般向け施設については、東京都中央卸売市場の公式情報をご確認ください。
アクセスは良好です。公式サイトのアクセス案内によれば、都営大江戸線「築地市場駅」A1出口から徒歩1分、東京メトロ日比谷線「築地駅」1番・2番出口から徒歩1分、東京メトロ日比谷線・都営浅草線「東銀座駅」5番・6番出口から徒歩5分とされています。駅を出てすぐ市場が始まるため、朝いちばんの行程に組み込みやすいのが築地場外市場の強みです。午前を築地に、午後を銀座や浜離宮に充てる組み立ても無理がありません。
※本記事の情報は2026年8月時点のものです。店舗の営業時間、定休日、取り扱い商品は変更される場合があります。お出かけ前に各店の公式情報をご確認ください。